『芝浜 』 と 原発




















2011年をしめる噺は、『芝浜』です。

私が、もっとも号泣した噺、
そして、お亡くなりになった、立川談志師匠の十八番です。


『芝浜』_____________

魚屋の、勝五郎さん。人間は悪くないのだが、大酒飲み、
お金をすべて、お酒につかいはたし、借金もかえせないまま、
仕事にも行かず、酒三昧の、年の暮れ。

ふがいない亭主に、とうとうブチキレた、おかみさん、
真夜中にたたきおこし、
「いいかげんにおし!さっさと魚河岸に行って、仕事しておくれ!」
と、追いだします。

酔いもさめぬまま、しぶしぶ出かける勝五郎さん。
真夜中のため、魚河岸もまだ、開いておらず、
仕事のしようもありません。

しかたなく、「芝の浜」で、キセルを吸いながら時間をつぶします。

海水で顔を洗っていると、海岸になにやら、ひっかかっているものを発見。
キセルで、引き寄せてみると、42両の大金が入った、革の財布でした!

あまりの大金に、すっかり酔いも覚め、財布をふところにしまいこみ、
逃げるようにうちへ帰ります。

「おっかあ、喜べ!これだけあれば、借金も返せるし、年も越せる!
拾ったもんは、オレのもんだ。さあ、飲むぞ!酒だ、肴だ!」

と、舞い上がり、また、お酒を飲んで、超・ごきげんで、
寝てしまった、勝五郎さん・・・。

「あんた、起きなさいってば!いいかげんにおし!
さっさと、魚河岸に行って、仕事しておくれよ!」

という、おかみさんの声で、再びたたき起こされます。

勝五郎 「なに言ってんだ、うちには、さっき拾ってきた42両があるじゃねーか!」
おかみさん 「なに寝ぼけてんだい? 42両を拾った? そんな夢みてたのかい?」
勝五郎 「へ?夢? そんなわけねえ! その証拠に、ここに買った酒があるじゃねーか.」
おかみさん 「ばかだねあんたは!!42両は、夢だけど、そのお酒は、現実なんだよ!
こんなにお酒買っちゃって、いったい、どうやって払うつもりだい?!」

・・・・・・・ 以下、つづく。
ここからは、故・談志師匠の、「フツーのおかみさん」になりきった、
熱演をごらんください。


この噺には、
「勝五郎さん」、「おかみさん」の他に、
もうひとり、隠れキャラの、「大家さん」が登場します。

「大家さん」は、おかみさんの話の中に、ちらっと登場するだけなので、
どんな容貌で、どんな性格なのか、ほとんどわかりません。
しかし、大家さんの、たった一言が、
あわや、人としての道を踏み外しそうになった、
この夫婦の人生に、「大どんでん返し」をはかるのです。

談志師匠は、
この、最重要人物である、「大家さん」に、
あえて、キャラをつけて演じませんでした。

また、『芝浜』の、ほとんどが、
「だめだめ亭主を更生させた、立派なおかみさんの話」みたいな、
夫婦愛の美談として、描かれているのにもかかわらず、
談志師匠だけは、おかみさんを、
「どこにでもいる、フツーのおばちゃん」として演じました。
私は、談志師匠は、この「大家さん」を、
おかみさんのようなフツーの庶民が、
だれでも持っている、
「良心」として、
表現したかったのではないかと思えてなりません。

多くのヒトが、談志師匠の『芝浜』を絶賛するのは、
いざ、悪事をはたらこうとしても、小さな「良心」がそれを阻止してしまう、
ワルになりきれない、庶民な自分と、重ねるからだと思います。

今の、日本のエライ、おじさんたちに
足りないのものこそ、「大家さん=良心」だと思います。

日本は、原発事故で、まちがいなく、ヒトとしての道を踏み外しました。

高度成長期と、バブルで、調子に乗って舞い上がり、
原発を安全だ、推進だと、
まるで「夢」のようなことを、言い続けてきた、
日本のエライおじさんたちの、心の中には、

『ばかなこと言っちゃいけねえ、うそついちゃいけねえよ。
 そんなもの持ってちゃ、命にかかわる。
 とにかく、自分の亭主(自分の国)が大事だったら、そんなもん、
 なかったことにするんだよ。』

と、言ってくれる「大家さん」が、なぜ、現れなかったのか。
目先の大金が、そんなに大事だったのか。

フツーのおばちゃんがいくら考えても、
納得できる答えはみつからないまま、
2011年が、終わろうとしています。


ちなみに、42両は、今のお金に換算すると、約420万円。

私は、もし、帰り道にそんなもの拾ったら、
勝五郎さんと同じく、拾ったもんは、私のもんだと言い張り、
うはうはで、札束を数え、
ひきとめる「大家さん」の口を、ガムテープでふさぎ・・・
という気、まんまんでした。

3.11以来は、

もし、そんなもん拾ったら、警察にも届けず、
そのまま、被災地に届けようと思っています。

私の中の「大家さん」が、
「名古屋で地震がおこらず、浜岡原発が爆発しなかったのは、夢だったんだよ」
と、言い続けているからです。


「自分で稼いだ420万円じゃないんかいっ?!」
と、つっこまれるところですが、

そんな気の遠くなることよりも、先に、

被災地の子どもたちがたくましく成長し、

だめだめなエライおじさんたちに代わって、

日本を復興してくれることを、信じたいと思います。



「おっと、もう、原発はよそう。
   また、夢になるといけねーからな。」


以上、『芝浜』、ゆみバージョンでございました。

♪ テケテン